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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)43号 判決

原告主張の審決の取消事由について判断する。

1 まず、右判断の前提となる本願発明の特質及び本願発明の技術と直接に関連するその周辺技術についてみるに、成立に争いのない甲第二号証によると、本願発明の明細書中発明の詳細な説明の項には、これらの点について次のような記述がされていることが認められる。

「(一) 本願発明は、空気タイヤにおける力の変動を補正するための手段に係るものであるが、この力の変動は、通常車輛の動揺、ラフネス及び操縦妨害のような問題を惹起すること

(二) 空気タイヤの製造においては、タイヤの不均一性をもたらす多数の要因があつて、絶対的に均一なタイヤを形成することは実質的に不可能であるとされており、これらの多数の要因が単独又は相互作用によつてタイヤの振動及び騒音をもたらすものであること

(三) これまでに、特定のタイヤの不規則性を補正するために多くの方法が用いられ、例えば、製造したタイヤを平衡させるべく、タイヤの内側に小量のゴムを付加するとか、タイヤを車輛に取付けた後平衡状態を補正するために車輪のリムに小さな錘を加えてタイヤを平衡させるとか、タイヤを旋盤に取付けトレツドを研削して完全に丸くすることによるタイヤの形直しなどがあること、そしてこれらは、半径方向ふれ(radial runout)といわれる問題を克服するのに用いられるものであるが、これらの方法では、設置される車輛の性質や型式に拘りなく、あらゆる速度下で円滑な乗り心地を与えるタイヤを生産するという目的を達成することができないこと

(四) 近年、製造したタイヤを表面に圧接回転させながら、タイヤの変動など前記の不均一をもたらす要因を、比較的複雑な電気的手段によつて測定できることが判明し、このようなタイヤの変動を測定するために開発された機械がユニフオーミテイ・マシンと呼ばれており、これには、通常タイヤを回転自在の車軸に取付けるための手段、回転自在に付設されていてその軸が適当なひずみ計に取付けられているドラム及び回転するタイヤによつてこれらのひずみ計に加えられる力を測定するための手段が含まれていること

(五) このタイヤ・ユニフオーミテイ・マシンによつて、膨脹されたタイヤが表面に圧接して荷重下で回転する間に、同時に起る種々の型式の力、力の変動、モメントの変動及び寸法の変動があることが判明したこと、そしてこの力変動は、半径方向力変動、横力変動及び接線力変動を含むこと

(六) こうして転動するタイヤによつて生ずる横力及び半径方向力変動を分析するために種々の型式のタイヤ・ユニフオーミテイ・マシンが製作されたが、これらの変動を補正するための効果的手段はこれまでのところなく、その代りにタイヤの均一性に関する種々の製品仕様に適合しえないタイヤの品質等級付けを格下げする必要があつたこと

(七) 本願発明の目的は、空気タイヤにおける力の変動の量を容認できるレベルまで減らすための手段の提供にあり、また、他の目的は、高速度下でも円滑な乗り心地のタイヤを生産すべく、これらの変動、特に半径方向力変動を実質的に補正するためのものであること」

そこで、これらの記載事項を前提として審決の取消事由について順次検討する。

2 原告主張の2の点について

(一) 当事者間に争いのない補正特定発明の要旨、前掲甲第二号証、成立に争いのない甲第三号証及び前1に認定の事実によると、補正特定発明は、その優先権主張日以前に知られていた前1の(三)ないし(六)に記載の技術(従来技術)を前提として、これに立脚したうえ、車輛の走行中空気タイヤに働く数種の力のうち、特にタイヤの半径方向に働く力(radial force)の変動が、タイヤないし車輛の振動、騒音を生じさせ乗心地を悪くする主たる要因であるとの知見に基づいて、前1の(七)に記載のような目的達成のために、請求の原因四の1の(一)の<1>ないし<3>のような構成をその要件とするものであることが認められる。

(二) ところで、成立に争いのない甲第四号証によると、第一引用例には、「ラフネス、ハーシネスの追放(Roughness, Harshness out)、タイヤの欠陥を除去する装置、ゼネラルが発表」との見出しのもとに、この装置は、タイヤのラフネスとハーシネスを矯正するために、タイヤのトレツドのシヨルダ(肩部)から僅かな量のゴムを取り除くことによつて、タイヤに存する僅かな変動を減少させるものであるとの趣旨の記事とともに、人が手にした二枚のオシログラムを写した写真が掲載され、その左側のオシログラムは、処理前の新しいタイヤのテストで得られたもの、右側のそれは、変動を取除くためにこの機械によつて処理された後のタイヤのテストで得られたものであるとの趣旨の説明が加えられていることが認められ、また、右記事は、その記載内容からみて、原告会社の開発した機械について原告会社が発表したところに基づいているものと解される。

しかし、また、前掲甲第四号証によると、第一引用例は、米国の地方一般新聞に掲記された至つて簡略な記事であり、これには前記のような内容が極めて概括的に述べられているにすぎず、これら記事及び写真の内容を詳細に検討しても、右(一)に記載のような補正特定発明の構成の基礎となつている、車輛の走行中空気タイヤに働く数種の力のうち、特に半径方向に働く力の変動が、タイヤないし車輛の振動、騒音を生じさせ乗り心地を悪くする主な要因であるとの知見が記載又は示唆されているものとは認めえない。

(三) ところで被告は、この点について、ラフネスとは半径方向におけるタイヤの不均一性による乗り心地の乱れをいうのであり、このラフネス修正のために、タイヤトレツドのシヨルダの一定部分から小量のゴムを取除くことが記載されている第一引用例は、補正特定発明と実質的に同じである旨主張する。

なるほど成立に争いのない乙第一号証によると、同号証は、F.J.KOVAO著の「タイヤテクノミジー」という書物であつて、その「ラフネス」という項には、その意義として、被告の主張するとおり、「半径方向におけるタイヤの不均一性による乗り心地の乱れ」と記載されていることが認められる。しかし、同号証によると、右書物は、本願発明の優先権主張の日より約六年後の一九七三年に刊行されたものであることが認められるほか、成立に争いのない甲第六号証ないし第八号証中のラフネスに関する記述をも併せ考慮すると、本願発明の優先権主張の日前に、「ラフネス」の語が、被告が主張するような意味でこの種技術分野において統一的固定的に認識されていたものとは考えられない。そうすると、第一引用例に「ラフネス」の用語が用いられているからといつて、このことが前(二)の認定を左右するものとはいえない。

また、第一引用例は、前認定のとおり原告会社の開発した機械について原告会社が発表したところに基づいて掲載されているものであることからすると、原告はその記載の技術内容について熟知していたものと解するのが相当であるが、このことと、同引用例に補正特定発明の基礎となつている前記知見が記載又は示唆されているか否かとは、別個の問題であることはいうまでもない。

そうすると被告の第一引用例に関する主張は採用できない。

(四) 以上のとおりであるから、第一引用例に記載されたところから直ちに、これには半径方向力変動に着目し、これを減少させ、タイヤの荒さを修正する技術が記載されているとみることは困難であり、後記のような第二引用例を第一引用例にそのまま適用しうるとする審決の認定も誤りというべきである。

3 原告主張の3の点について

(一) 成立に争いのない甲第五号証によると、第二引用例は、本願発明の優先権主張日より約四年前の一九六三年三月一九日から同月二一日までの間に行われた米国の全国自動車会議において発表された「タイヤの非均一性の管理と乗用自動車製造業者の見解」と題する論文であり、これには、タイヤ均一性格付け機(Tire Uniformity Grading Machine)なる機械を利用してタイヤに働く半径方向力変動その他各種の力変動を測定し、タイヤの等級付け(格付け)を行う技術が記載されていることが認められ、このことは先に認定した本願発明の明細書に記載の従来技術(特に、前1の(四)ないし(六))に符合するものと解される。

(二) しかし、第二引用例を詳細に検討しても、空気タイヤがある表面に対して転動するときに生ずる、半径方向力変動の原因となる領域をいかにして発見するかについての具体的方法に関する記載又は右具体的方法を示唆しているものと解しうる記載があるものとは認め難い。

なるほど、第二引用例の第12頁に掲記の第26図は、半径方向力変動を示すオシログラムであつて、その左側の山部分にはトレツド・スプライスとの表示がされており、このことからすると、一見同図は、タイヤの円周の如何なる位置で如何なる半径方向力変動が生じているかを示しているようにも解せられないではない。

しかし、成立に争いのない甲第九号証によると、トレツド・スプライスの位置とタイヤ不均一性の相関関係はしかく単純ではなく、殊にトレツド・スプライスの位置の確認は、タイヤを切断することによつてさえも正確に判定できない旨の記載があることなどを考慮すると、如何なる方法によつてトレツド・スプライスの位置を確定したかについて特段の記載がない第二引用例において、たまたま前記のとおり、オシログラムの一つの山部分にトレツド・スプライスと表示されていることをもつて、同引用例には、半径方向力変動の原因となる具体的領域を発見する方法が記載又は示唆されていると断定することは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうすると第二引用例に関する被告の主張も採用できず、審決の認定も誤りというほかない。

4 以上、1ないし3に述べたところを併せ考えると、補正特定発明が、第一引用例及び第二引用例に基づいて容易に発明することができたとの審決の判断は誤つたものというべきである。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 補正後のもの

(1) 膨脹状態にある空気タイヤがある表面に対して転動されるとき生ずる半径方向力変動の大きさを減ずることにより空気タイヤの性能特性を改善する方法において、前記タイヤのトレツド部分において前記半径方向力変動が生ずる領域を発見する段階と、主として前記トレツド上の前記領域における前記トレツド部分のシヨルダから選択された小量のゴムを除去する段階とを含む空気タイヤ性能特性改善方法。

(2) タイヤが荷重下である表面に対して転動され膨脹されるとき生ずる半径方向力変動の大きさを減ずるように空気タイヤを補正する装置において、タイヤのトレツド部分に沿つて半径方向力変動を感知する装置と、減少されるべき前記半径方向力変動を選択するための手段と、前記タイヤに隣接して装着されかつ該タイヤと接触及び離間すべく移動するように適合され、主として前記半径方向力変動が生ずる前記トレツド上の領域のトレツド部分のシヨルダから、ゴムを選択的に除去するゴム除去手段とを含む空気タイヤ補正装置。

2 補正前のもの

(1) タイヤが荷重下である表面に対して転動され膨脹されたとき生ずる力変動の大きさを減ずることにより空気タイヤの性能特性を改善する方法において、前記タイヤのトレツド部分において前記力変動が生ずる領域を発見する段階と、前記領域から選択された小量のゴムを除去する段階とを含む空気タイヤ性能特性改善方法。

(2) タイヤが荷重下である表面に対して転動され膨張されるとき生ずる力変動の大きさを減ずるように空気タイヤを補正する装置において、タイヤのトレツド部分に沿つて力変動を感知する装置と、減少されるべき力変動を選択するための手段と、前記タイヤに隣接して装着されかつ該タイヤと接触及び離間すべく移動するように適合され、力変動が生ずるトレツド上の領域からゴムを選択的に除去するゴム除去手段とを含む空気タイヤ補正装置。

(1、2とも、別紙図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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